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札幌地方裁判所 昭和52年(ワ)1266号 判決

原告 村上長左衛門

右訴訟代理人弁護士 新川晴美

被告 竹田敬之

右訴訟代理人弁護士 高田照市

主文

一  被告は原告に対し、金六四万七〇六七円及び内金五四万七〇六七円に対する昭和五一年一二月二五日から、内金一〇万円に対する本判決確定の日の翌日から、それぞれ完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金八九万七〇六七円及び内金七四万七〇六七円に対する昭和五一年一二月二五日から、内金一五万円に対する本判決確定の日の翌日から、それぞれ完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告と被告は、共に、昭和五一年一二月二五日当時、札幌市中央区南四条西一丁目所在訴外酒田衣子所有の酒田四条アパート(以下、本件アパートという。)内二階七号室、同階二号室をそれぞれ賃借占有していた。

2  昭和五一年一二月二五日早朝、被告の使用していた本件アパート二階七号室から出火した火災(以下、本件火災という。)により、本件アパートは全焼し、その内部にあった原告所有の別紙物件目録記載の家財道具一切が焼失してしまった。

3  本件火災は被告の重大な過失から生じたものである。

(一) 本件アパートは、店舗、住宅等の密集地域にあり、昭和一〇年頃に建築された木造二階建であって老朽化が激しく、一階は小規模店舗として使用され、二階は全部アパートとして使用されていた。

(二) 被告の使用していた本件アパート二階七号室は六畳間であるが、机、書棚、ファンシーケース等のために約二・五畳は起居には使用できず、残る約三・五畳にベッドを置いていた。

(三) 被告は、昭和五一年一二月二五日午前三時ころ、飲酒の上同室に帰宅し、暖をとるためにベッド横約二〇センチメートルの畳の上に電気コンロ(出力三〇〇ワット、六〇〇ワットの切換スイッチ付き、円形平型で上部周囲に覆いがないもの)を置き、同器に点火した。

(四) 右のような状況のもとにおいて、被告が右電気コンロを点火したまま就寝する場合には、ベッド上の毛布等が同コンロに接触するなどし、火災が発生することは容易に予見し得たのであるから、被告においては、右コンロを消火して火災の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに右義務を著しく怠り、漫然同コンロを点火したまま就寝してしまった重大な過失により、ベッド上の毛布が被告の寝返りと同時にたれ下がり、右コンロから同毛布に引火して出火し、本件火災となった。

4  損害

(一) 原告が本件火災により喪失した火財道具の価額は、別紙物件目録記載のとおりである。

右による原告の損害額は、中古品であることを考慮しても金四四万七〇六七円(各物件の取得価格合計の三分の二に相当する価額金四一万二〇六七円に現金を加算)を下回らない。

(二) 本件火災により、原告は厳寒の中焼出されたが、暖房器具、衣類もないまま春を迎えた。この間に原告の被った精神的苦痛は、金銭に評価すると三〇万円に相当とする。

(三) 原告は、本件事件を弁護士に依頼するに当たり、金一五万円を着手金、成功報酬として支払うことを約している。

5  よって、原告は被告に対し、損害額合計八九万七〇六七円及び内金七四万七〇六七円に対する本件不法行為時である昭和五一年一二月二五日から、金一五万円に対する判決確定の日の翌日から、それぞれ完済までの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  (一)同3(一)の事実は認める。

(二) 同3(二)の事実のうち、七号室が六畳間であるとの点は認め、その余の事実は否認する。

(三) 同3(三)の事実のうち、被告が午前三時ころ帰宅したこと、暖をとるためベッド横(ただし、約一メートル)の畳の上に電気コンロを置き点火したこと、同コンロを消火せずに就寝したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(四) 同3(四)の事実はすべて否認する。

4  同4の事実は知らない。

5  同5は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1、2及び3(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》によれば次の事実が認定できる。

1  被告の使用していた本件アパート二階七号室は六畳間であるが、室内北側に流し場、洗たく機及びポータブル石油ストーブが、西側壁際にくつ箱、茶だんす、整理だんす及びファンシーケースが、東側に机が、南側壁際に木製ベッド(西向き)が、それぞれ配置されており、右ベッド後側部から約五〇センチメートル離れて、電気コンロ(直径二五センチメートル、高さ七センチメートル、出力三〇〇ワットと六〇〇ワットの切換スイッチ付き、円型でニクロム線が露出したもの)が、床上(畳の上にカーペット敷き)に積み重ねられた雑誌二冊の上に置かれていた。

2  被告は、昭和五一年一二月二五日午前三時ころ帰室し、石油ストーブ用の灯油が切れていたことから、暖をとるため右電気コンロ(出力六〇〇ワット)に点火した。

3  被告は、右コンロに点火後すぐベッドに入り、そのまま就寝してしまったが、右ベッド上には毛布が移動可能な状態で単に掛けられていた。

4  同日早朝、被告が目を覚ますや、ベッド足元横の電気コンロ付近から炎が上っていた。

以上の認定に反する被告本人の供述部分は措信しない。

以上の事実によれば、本件火災は、被告が就寝中寝返りをうつなどした際に、ベッド上の毛布が右コンロ上にたれ下がり同コンロの熱から同毛布に引火して本件火災が発生したとの事実が推認できる。

三  そこで、本件火災につき被告に重大な過失があったかどうかを検討するに、前記認定事実によれば、本件部屋の状況からして被告が電気コンロを消火しないまま就寝するならば、ずり落ちないよう工夫のされていないベッド上の毛布等が右コンロに接触、引火するなどして火災が発生するであろうがい然性は極めて高いものであったということができる。そうすると、被告としては、わずかの注意さえすれば、容易に右違法な結果を予見できたのであるから、就寝する際には右コンロを消火して火災の発生を未然に防止すべき注意義務を負っていたといわざるを得ず、したがって、漫然右コンロを消火しないまま就寝してしまった被告の右不作為は、著しい注意義務違反として重大な過失に当たるといわなければならない。

四  《証拠省略》によれば、本件火災により原告の被った損害は次のとおりであると認定できる。

1  財産的損害

本件火災により焼失又は使用不能となった原告所有の別紙物件目録記載の家財道具の時価合計四一万二〇六七円(右各物件の取得価格合計の三分の二に相当する価額)及び現金三万五〇〇〇円。

以上合計四四万七〇六七円

2  慰藉料

本件火災により焼出されたことによって被った原告の精神的苦痛は、本件諸般の事情にかんがみ金銭に評価すると、一〇万円をもって相当とする。

3  弁護士費用

前記1、2の認容額の約二割に相当する一〇万円をもって相当とする。

五  以上によれば、原告の本訴請求は金六四万七〇六七円及びこれに対する主文記載の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 秋山壽延)

〈以下省略〉

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